相続人には遺留分がありますが、医療法人の持分には及びません。

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2017/12/10
相続人には遺留分がありますが、医療法人の持分には及びません。

個人事業主として医院経営や病院経営を行っている院長先生の相続が発生すると、建物や医療機器について、自動的に後継者に引き継がれるのではなく、相続人間で誰が相続するかを協議することになります。

協議した結果は、遺産分割協議書に全員が署名及び実印を押印して、それで初めて財産を相続する人が決まります。

最近では、相続人の1人がアメリカに居住しているなど遠方で、遺産分割協議書を持ち回りで作成するのが大変だと聞くことがあります。この場合には、個々の相続人が遺産分割証明書(又は遺産分割協議証明書)を出し合うことで、遺産分割協議書の代わりにしても問題ありません。
それでも全員が署名と押印した書類を揃えることは必要となります。

また「相続人全員が遺産分割協議書の内容に納得するならば、財産の分け方は自由なのか?」という質問をされることもあります。

もともと民法で法定相続分が決まっていますが、それに縛られることはありません。財産をどのように分けるかは相続人の自由です。

そのため、例えば院長先生の妻が生存していれば、妻に全部を相続させることに子供などが納得するケースがよくあります。ただ遺産分割協議書を作成するときには、注意点があります。

それは相続人の1人でも署名と押印を嫌がったら、遺産分割協議書は完成しないことです。感覚的には多数決で決めてもよい気もしますが、全員が合意しなければいけません。私が以前関わった案件では、母親の相続(父親は10年前に死亡)で、兄弟5人が相続人でした。最初の話し合いでは、相続財産を5分の1で分けることで合意しました。

ところが、実際に署名と押印するときになって、兄弟のうち1人が合意できないと言い出したのです。自分は他の兄弟に比べて経済状況がよくないので、母親の相続財産の3分の1が欲しいというものです。民法の法定相続分は5分の1ずつです。でもこの1人がそれに納得できないということであれば、強引にその法定相続分にすることはできません。

平成16年の裁判所の判決では、預貯金について被相続人の死亡により相続人に当然に分割されて、遺産分割の対象とはならないとされていました。ところが、平成28年12月19日に最高裁の判決で、預貯金も遺産分割の対象となると判断したのです。結局、遺産分割協議書が完成しないと、銀行から被相続人の預金を下ろすこともできないのです。そこで他の相続人たちは1人に3分の1を渡すことに合意して、残った3分の2を4分の1ずつ分けることにしました。

私はホッとしましたが、もし他の4人も引き下がらなければ、家庭裁判所に申し立てを行うしかありません。その場合には、裁判官は誰かの肩を持つことはありません。公平な立場で判断すれば、民法で決められた法定相続分となります。

あなたは、「では先ほどの4人の相続人も家庭裁判所に申し立てれば、5分の1になったのでは?」と考えたかもしれません。でも裁判をやるとなると、何年間もかかり、かつ弁護士の報酬もかかります。兄弟の仲も最悪です。しかも法定相続分で分けろと判決が出たとしても、すべての財産が相続人で共有となってしまうのです。

これを個人事業主の医院や病院に当てはめてみれば、共有となった建物や医療機器を売却するためには、共有者全員の合意が必要となります。当然ですが、後継者となった相続人が反対するので、医院や病院がつぶれてしまうリスクはありません。それでも医院や病院の後継者は、所有者となった兄弟に賃料を支払う必要があるでしょう。医療機器であればリース料として支払うことになります。

このような事態を防ぐためには、父親が遺言書で医院や病院の後継者を指定して、その財産を相続させることを決めておく必要があります。遺言書があれば、遺産分割協議書を作成しなくても、後継者が相続することができます。ところが、これですべてが解決されるわけではありません。

民法には相続人の最低限の取り分として遺留分が認められているからです。

他の相続人から遺留分を請求された場合、それに見合うお金を渡して納得してもらえばよいのですが、納得してもらえなければ、やはり名義を入れられて共有となります。ということで院長先生である父親が遺言書を作成しても、相続人がもめて、しかも共有となるリスクをゼロにはできないのです。それならば遺留分に見合うお金を後継者以外の相続人に相続させるように遺言書を作成しておけばいいと思うかもしれません。

具体的な事例で考えてみましょう。
院長先生の相続人は、後継者である長男と後継者とならない長女とします。
(院長先生の妻は5年前に死亡)
現時点ではまだ院長先生の相続は発生していません。

院長先生は医院や病院の建物だけではなく、土地も所有しています。それに医療機器の評価を合計すると2億円となりました。評価は、実際に売却した場合の時価として見積もります。建物は不動産会社、医療機器はメーカーなどに依頼すれば時価が算定できます。

長女の遺留分は4分の1です。
そのため預金が7000万円あれば、2億7000万円×1/4=6750万円となり、預金を長女に相続させることで、長男に対して遺留分を請求させないことができます。ただ遺言書を作成したときには相続財産が2億7000万円あったとしても、院長先生が亡くなるまでにはまだ時間があります。

新しい医療機器を導入することになり、預金の一部を使ってしまうかもしれません。院長先生が老人ホームなどに入居することになって、一時金を支払うこともあります。医院や病院の建物や土地、医療機器の時価も変動します。そのため、絶対に長女から遺留分を請求されないという保証はないのです。

そこで医院や病院の建物と医療機器に対する遺留分の請求だけは、防ぐ方法が1つだけあります。それは、医療法人を設立することです。

平成19年4月1日以降に設立された医療法人には持分がありません。院長先生である父親の社員たる地位(株式会社の株主に当たる)は一身専属の地位であるため、亡くなったことで相続人に相続されません。持分もないので、父親の相続財産にもカウントされません。

そのため、院長先生が遺言書を作成するときに、すでに後継者が決まっているのであれば、医療法人を設立するのがよいでしょう。子供たちが争うことを望む院長先生はいないはずです。

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