院長が医療法人の会長になるときに退職金を支払う場合に、必ずチェックすること③

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2018/01/30
院長が医療法人の会長になるときに退職金を支払う場合に、必ずチェックすること③

前回の記事までは、持分のなしの医療法人で院長先生が理事長の座を子供に譲り、自分が理事または勤務医として働くとき(分掌変更したとき)に退職金を支払うケースを説明しました。今回は、持分ありの医療法人について考えてみます。

基本的に、平成19年3月31日までに設立した医療法人は、そのほとんどが「持分あり」の医療法人でした。「持分なし」の医療法人であれば、相続税もかかりませんし、相続人間で相続のときに争うことも医療法人の持分に関してはありません。そのため、医療法人の後継者にとっては、持分なしの医療法人の方がよい気がします。実際に遺産分割で争って、閉鎖してしまった医療法人もありますし、医療法人が所有していた病棟を売却して、後継者以外の相続人にお金を渡したケースもあります。

このような事態を防ぐために、現在は持分ありの医療法人から、持分なしの医療法人にスムーズに転換できる特別な制度もできました。

ただ院長先生の気持ちとして、持分なしの医療法人に移行することには抵抗がある場合も多いでしょう。というのも、そもそも個人事業主として医院経営や病院経営を運営してきた院長先生が、医療法人を設立した時に、その財産を移転させたのです。持分なしの医療法人に変われば、将来、解散したときに残った財産は、国や地方公共団体に寄付されてしまいます。もちろん、医療法人は解散させずに、子孫代々ずっと引き継がせていくということであれば、そんなことも起こりません。

それでも院長先生にとって、医療法人の持分は自分の財産であり、「持分あり」から「持分なし」に移行するということは財産を放棄することにつながり、気持ちいいものではないということも理解できます。

一番最初に医療法人の制度が作られたときにも、厚生労働省は個人事業主で医院経営や病院経営をやっても、医療法人を設立しても同じことだと言っていたことも事実です。私も、院長先生が嫌な気持ちになってまで「持分なし」の医療法人に移行する必要はないと思います。

「持分あり」だからと言っても、医療法人から院長先生が十分な給与をもらっていれば、医療法人の持分が数億円となることはあっても、何十億円と増えることはないはずです。ただ将来の親族間の争いとならないように、医療法人の持分という財産は院長先生の生前に子供に渡しておくべきです。

そして持分ありの医療法人の院長先生が分掌変更によって、理事長から理事、または勤務医となるときに退職金を支払うのであれば、その持分を子供に売却するタイミングとしてもよいと考えます。

当然ですが、分掌変更によって退職金を支払うときには、持分なしの医療法人のときと同じような注意点を守らないと否認されるリスクがあります。それでも、このタイミングで持分を子供に売却することは、2つのメリットがあります。

 

(1) 退職金を支払うため、持分が安くなる

医療法人の持分は、相続税法では純資産価額と類似業種比準価額という2つの評価方法を折衷して計算します。

純資産価額とは、医療法人が所有する資産を時価で評価してそこから負債を控除した残りの金額で評価する方法です。一方、類似業種比準価額とは、医療法人の利益等から収益性に着目して評価する方法です。

通常は、医療法人の場合には建物内装設備や医療機器など投資する固定資産の金額が大きい割には利益率が低いため、類似業種比準価額は安くなり、純資産価額は高くなる傾向にあります。

ところで医療法人の場合には、退職金を生命保険などで準備していることが多いと予想されます。生命保険は保険料の全額が経費となる商品もありますが、保険料の2分の1が経費となる商品もありますが、どちらにせよ純資産価額を計算するときには解約返戻金で評価されます。これらの生命保険の含み益が大きいとそれに比例して医療法人の純資産価額も大きくなります。

これらは分掌変更によって、院長先生に退職金を支払うならば、その生命保険も解約して吐き出してしまうはずです。これにより、医療法人の純資産価額は大きく減ることになります。

この相続税の評価額は、院長先生の持分を子供が相続するときの評価にだけ使われるものではありません。院長先生が生前に、医院や病院を承継する子供に贈与したり、譲渡したりするときの評価でも使うのです。

そのため上記の事例であれば(類似業種比準価額は無視します)、医療法人の持分を2億円で子供に譲渡しなければいけないところ、退職金を支払ったことで半分の1億円で譲渡できることになります。

それでも子供に1億円のお金があるはずもなく、それは分割で支払っていけば問題ありません。このとき院長先生は最初に出資したお金、ほとんどの都道府県で資本金1000万円の医療法人が設立されていると予想されますが、それを超える部分は譲渡所得税がかかります。譲渡所得税の税率は20.315%なので、(1億円-1000万円)×20.315%=約1800万円の所得税を支払うだけで持分を譲渡できます。

 

(2) 社員(株主のこと)から抜けることができる

医療法人の社員(株主のこと)が脱退するときには、その持分に相当する金額を払い出す必要があります。最初に医療法人に出資した資本金が1000万円とすれば、それを超える部分は配当とみなされます。医療法では医療法人の配当は禁止されているため、本当の配当ではなく、みなし配当と呼ばれる税務上だけの考え方となります。

ただみなし配当となると、通常の株式会社の配当と同じで、院長先生の給与と合算されて所得税がかかるのです。先ほどと同様に、院長先生に退職金を支払ったことで、純資産価額が1億円だとすれば9000万円が配当所得となります。配当所得となれば、院長先生の給与と合算されて最悪55%の所得税がかかります。つまり、5500万円の所得税となり、譲渡の時と比べて2倍以上になってしまうのです。

ところが院長先生がその持分を子供に譲渡しておけば、社員(株主のこと)としての地位のみとなり、脱退しても払戻金額はゼロとなります。そして院長先生が医療法人の社員(株主のこと)ではなくなることで、経営に参加していないという証拠の1つにもなるのです。

なお、持分ありの医療法人の社員の持分は、MS法人に売却することもできます。

それを取得したMS法人には議決権がありませんが、購入は禁止されていません。子供が医療法人の社員(株主のこと)になれば、MS法人に議決権がなくても支障はありません。

子供に売却しないでMS法人に売却する理由は、子供が分割で支払う場合、返済が完了する前に院長先生の相続が発生すると、その貸付金が相続財産となるからです。それが相続人間での争いの種になる可能性があれば、MS法人のお金を使って譲渡を完了するという方法が考えられるからです。これで院長先生が社員を脱退しても「みなし配当」として高額な所得税がかかることもなく、譲渡所得税を支払えばよく、相続の争いも防げることになります。

なお、MS法人の株主は、事前に医療法人を承継する子供に変更しておく必要があります。MS法人の株主が院長先生であれば、結果的に相続税の対策にもならず、親族間での争いの種になるからです。

 

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