持分ありの医療法人は金庫株が使えるのか?

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2018/06/30
持分ありの医療法人は金庫株が使えるのか?

子供が株式会社を相続したときに、その株価が予想以上に高くて相続税が支払えないことがあります。相続税は分割して支払うか、銀行からお金を借りて支払うことになります。また同時に相続税の問題だけではなく、遺産分割で他の相続人から不公平だと訴えられて、争いに発展することもあります。

そこで、その株式を発行した株式会社自身に売却することで、相続税と他の相続人に渡すお金を捻出することがあります。商法の時代には、株式会社が自分の発行した株式を購入すると運転資金であるお金が払い出されてしまうため、原則、禁止されていました。

その後、会社法に改正されて、配当可能利益の範囲内であれば、自分の発行した株式を購入してずっと保有することが許されたのです。

自分の株式を金庫に閉まっておくことができるという意味で、金庫株と呼びます。

例えば、下記の図のように、長男が会社を継いで、その株式の価値は3億円だと仮定します。
その長男が遺産分割の時に株式を会社に1億円で売却して、そのお金を相続人である次男に渡すことになりました。

あなたは、
「父親が生前に、長男に対して株式会社の株式を贈与していれば、相続税の問題も、遺産分割で次男とのもめごともないのでは?」
と考えるかもしれません。

確かに計画的に長男にすべての株式を生前贈与できていれば、相続税の問題は解決できます。ところが遺産分割では、次男の取り分は生前に贈与した株式も含めて、2分の1の取り分があるのです。

民法では相続が発生したときの財産を分けるのではなく、父親が生前に贈与した財産も含めて分けると規定しているのです。

とすれば、この事例で株式以外の財産がないと仮定すれば、次男は1億5000万円の取り分があります。ただ次男としても株式の価値の半分をよこせとまでは言わず、3分の1で長男と合意したのです。結果的に、長男は金庫株を使って会社からお金を引き出すことができて、遺産分割もまとめることができました。

実は、ここで重要なポイントがあります。

それは金庫株とは、株式会社の配当可能利益を使って買い戻すため、原則、資本金を超える部分は配当所得となるのです。

配当所得とは給与と合算されて総合課税で所得税がかかることになります。つまり、承継者である長男の給与が高ければ、金庫株として売却した1億円のほとんどの部分に55%(住民税も含む)の所得税がかかることになるのです。
ただし、ここに例外の規定があります。

それは、相続が発生したときに相続税の対象となった株式を金庫株として売却するのであれば、その利益は譲渡所得とみなすという規定です。

これによって、売却益の20%にのみ譲渡所得税がかかることになります。さらに売却した金庫株にかかった相続税を経費として加算してよいという規定もあり、売却益は下がります。
ということで、長男に株式を生前贈与してしまうとこの制度の対象とはならず、売却した金庫株には高い所得税がかかってしまうのです。結果的に、その手残りで次男にお金を渡すしかありませんが、生前贈与しておけば相続税の支払いはないので諦めるしかありません。

ではこの株式会社を医療法人に変えて考えてみましょう。
持分なしの医療法人は、持分がないので、相続税の対象にもなりませんし、遺産分割の対象にもなりません。

一方、持分ありの医療法人は、株主のことを社員と呼びますが、持分があるため、相続税の対象にも、遺産分割の対象にもなります。だからと言って、私は持分ありの医療法人が、すべて持分なしの医療法人に移行すべきと断言している訳ではありません。院長先生としては、医療法人の持分は自分の財産であり、家族に相続させたいという気持ちもあるでしょう。

持分を放棄しないとした場合、株式会社と同じ問題が発生しますが、持分ありの医療法人でも金庫株と同じようなことができるのでしょうか?

答えは、医療法人では金庫株の制度が利用できません。

そのままにしておくと、承継者である長男以外の相続人も医療法人の持分を取得してしまいます。そのあと、医療法人の経営に参加する意思もないため、持分の払戻しを要求してくるでしょう。医療法人がお金を払い戻すと、それは配当所得となります。

あなたは、
「医療法人は配当ができないはずでは? それなのになぜ、配当所得になるのか」
と疑問に思うかもしれません。

医療法では社員(株主)が退社したことに伴って、持分を払い戻しているだけであり、配当ではないと定義しています。ところが所得税法では医療法とは関係なく、この払い戻したお金は配当所得と定義していて、給与と合算して、最大で55%(住民税も含む)の所得税をかけるとしているのです。
それでも承継者である長男以外の相続人は、100%が所得税として取られるわけではなく、最低でも45%は残るのですから、払い戻しを請求してきます。このままでは、医療法人のお金が無駄な所得税で消えてしまいますし、そもそも承継者である長男とそれ以外の相続人が争うことは、父親である院長先生が望むことではないはずです。

そこで、下記の図のように、MS法人を設立して、そこに医療法人の持分を買ってもらうという方法があります。これで配当所得ではなく、売却益は譲渡所得として20%の税率ですみます。他の相続人は医療法人の持分が欲しい訳ではなく、お金が欲しいだけですので納得するはずです。少ない所得税で手残りが多くなるのですから、全員にとってよい方法なのです。

このとき、MS法人は一般の株式会社と同じ形態だったはずだが、医療法人の持分を買うことができるのかと質問する院長先生もいます。

実は、厚生労働省から株式会社でも医療法人の持分を保有することができると回答が出ています。

ただし社員(株主)になることはできず、議決権を行使できません。

MS法人がかなり前から設立されていて、医療法人から業務委託手数料などを受け取ることで、すでにお金が貯まっていれば持分を買い取れます。ところが、買い取るための1億円のお金をMS法人が用意できない場合もあります。
その場合には、どうすればよいのでしょうか?

MS法人が医療法人の持分を担保に銀行からお金を借りることは難しいと考えます。理由は、医療法人は配当ができないため、返済する原資がないためです。

そこで医療法人が銀行からお金を借りて、MS法人が発行した社債を購入するのです。

社債であれば金利は支払いますが、元本の返済はかなり後になります。MS法人の社債の返済と、医療法人の銀行への返済はリンクしません。あくまで銀行は医療法人の与信に対してお金を貸すことになります。

なおMS法人が株式を発行してそれを医療法人が引き受けるのはダメなのかという疑問も沸きます。株式であればMS法人は元本を返済する必要もなくなります。
これに関しては、医療法人が元本保証されるような確実な投資先でないと運用できないとされているため、難しいと考えます。

医療法人が株式に投資していると監督官庁である都道府県に分かってしまえば、すぐに売却するように指導されるリスクもあります。長男がそれを買い受けるしかないのですが、資金的に難しいはずです。だから社債を発行することで、このような事態に陥ることを防いでいるのです。

ただできれば、早目にMS法人を設立して、お金を貯めておくのがよいでしょう。

 

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