不祥事を起こした看護師やスタッフの給料を減額できるのか?

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2013/11/20
不祥事を起こした看護師やスタッフの給料を減額できるのか?

先日、顧問先の院長先生が突然、電話をかけてきました。
いつもならば、院長先生の奥さんが経理や人事を管理しているので、「何か問題でもあったな」と私は直観しました。

患者さんの情報を漏えいした看護師がいて、許せない。
患者さんとは和解したので、医師会などにクレームが行くことはないと思うが、
懲戒処分として、その看護師の6ヶ月の給料を20%減額したい。
明日にでも、発表したいので、具体的な手続きを教えて欲しい。

不祥事を起こした看護師やスタッフの給料を減額できるのか? 私は、すぐに院長先生に、
「落ち着いて聞いてください。6ヶ月、20%の減額はできません」
と答えました。

「なぜだ」と興奮する院長先生に、
「法律では、1ヶ月のみで10%減額が上限と決まっているからです。」
とお伝えしました。それでも院長先生は、「新聞報道で、よく〇ヶ月〇%減給と報道されている」と反論してきました。

医院や病院は、患者さんの病気に関する情報だけではなく、名前、生年月日、住所、それに親族関係までも、分かっています。その情報が外部に漏れて、犯罪に使われたり、病気のことが近所の人たちにばれたら、大変なことです。

ところが、看護師やスタッフには、あまり危機感がありません。
だから情報が漏えいしないように、棚に鍵を掛けて管理したり、パソコンやデータにはパスワードをかけたりと、うっかりミスがないような保全はしているはずです。

ただし、看護師やスタッフが意図的に情報を漏らしてしまおうと考えたら、防ぐのは難しいでしょう。

24時間、看護師やスタッフの行動を監視することはできませんし、そもそも性善説をもとに医院経営や病院経営は行われています。
過失やうっかりミスがないように、保全することは簡単ですが、意図的な内部犯行から情報漏えいを防ぐためには、かなりのコストと時間がかかります。

ハッキリ言って、現実的ではありません。

だからというわけではないですが、医院や病院に限らず、大企業でも社員の不祥事は、あとを絶ちません。あれほど、システムや秘密漏えいを防ぐことにお金をかけている銀行でさえ、社員が不祥事を起こすのです。

もちろん、不祥事を起こした社員は懲戒処分されています。

同じように、医院経営や病院経営でも、看護師やスタッフが不祥事を起こしたときには、懲戒処分として減給するのは、おかしなことではありません。

いや、懲戒処分を行うことは、周りの看護師やスタッフの気を引き締めることにもつながるので、ダメなことは、ダメとハッキリさせることは大切だと私は思っています。

ただし、この懲戒処分の運用に、法的な注意点があります。
これはよく質問される内容で、誤解の多いところでもあるので、この部分を整理していきましょう。

例えば、大学医院などでスタッフが不祥事を起こした場合、理事長などが報酬を返上するケースがあります。
このときに「理事長は、〇ヶ月〇%減給」という報道を耳にします。
これは大学病院の不祥事に対して、理事長という経営者が世間に責任を示すために【自ら】報酬を返上しているのです。
だから、これは懲戒処分としての減給ではないのです。

また、公務員が不祥事を起こした場合も、「〇ヶ月〇%減給」という処分をよく聞きます。
国家公務員法、地方公務員法では、懲戒については人事院規定に定めるとしています。
これによると減給の制裁は、「1年以下の期間(月単位)で、月額の5分の1以下」から減らすことができるとされています。

だから、公務員の場合は「最大で1年間、20%を減給する」ことまで可能なのです。

しかし、医院や病院では、このような減額は【法的に】許されません。
なぜなら、労働基準法91条に減給の上限が下記のように定められているからです。

【1】減給1回の額 ≦ 1日分の賃金×1/2
   → 例:1回の遅刻につき、0.5日分の減額
【2】1ヶ月の減給の総額 ≦ 1ヶ月の賃金×1/10

上記の①と②の両方の範囲内での処分しか認められていないのです。

さらに、ここで注意することがあります。
それは「事前に」、情報を漏えいした場合や遅刻した場合の減給の規定(懲戒処分)を就業規則で明文化しておかないといけないということです。

具体的には以下となります。

(制裁の事由)
第〇条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責(けんせき)、減給、出勤停止又は降格降職とする。
(1)正当な理由なく欠勤をしたとき
(2)正当な理由なく遅刻、早退し、又はみだりに任務を離れる等、誠実に勤務しないとき
(3)故意に社内の重大な情報を外部に漏らしたとき

(以下、省略)

このように制裁を明文化しておかないと、「どんな懲戒処分でも実施できない」のです。

しかし、懲戒処分が「たったの1月のみで、給与を最大10%の減額」では軽すぎると、不満を持つ院長先生が多くいます。

「医院経営や病院経営を破たんさせるほどの大きな不祥事を起こしても、減額10%の処分しかできないとすれば、再発防止にならない」という意見が多いのも事実ですし、私もそう思います。

そこで、あなたの医院や病院で備え付けている就業規則の懲戒処分の規定をよく見てください。
懲戒処分の「軽いもの」から「重いもの」まで、記載されているはずです。

本来は、そこできちんと保全されているのです。
しかし、中には下記の記載がもれている就業規則もよくあるので、注意が必要です。
特に、(4)が抜けていることが多いので、ご確認ください。

(1)譴責(けんせき):始末書を提出させ、将来を戒める。

(2)減給:始末書を提出させて、減給する。ただし、1回につき平均賃金の1日分の半額、総額においては一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えない範囲にて、これを行う。

(3)出勤停止:始末書を提出させ、7日以内の出勤を停止する。その期間の賃金は支払わない。

(4)降格降職:資格等級の引き下げもしくは役職を解く。この場合、労働条件の変更を伴うことがある。

(5)論旨(ゆし)解雇:懲戒解雇相当の事由がある場合で、本人に反省が認められるときは退職願を提出するように勧告する。ただし、勧告に従わないときは懲戒解雇とする。

(6)懲戒解雇:予告期間を設けることなく即時解雇する。この場合において、所轄労働準監督署長の認定を受けたときは、予告手当を支給しない。なお退職金も同様とする。

もし、「減給では処分が軽すぎる」と思われるならば、次の段階の「出勤停止」や「降格降職」の処分とするのです。

金額のみにフォーカスするのではなく、もっと大きく考えるのです。
もちろん、程度によっては、解雇に発展する場合もあるでしょう。

たとえば、それが1回でも、患者さんの個人情報を漏えいするなど、犯罪レベルであれば、解雇すべきです。1人の悪意で、医院経営や病院経営が破たんしては、そこで働く人だけではなく、患者さんにも迷惑をかけてしまいます。

甘い処分は、その人のためにもなりません。

ただ繰り返しになりますが、懲戒処分を実施する場合、「就業規則に規定が明文化されていること」が必要です。

また、明文化されていたとしても、その処分の内容にモレがあることもあるのです。
この懲戒処分の規定は、「大きく考える部分」と「緻密に考える部分」の両方が保全されていないと不完全なのです。

院長先生はもう一度、医院や病院の就業規則を見直してみてください。
記載がない処分を看護師やスタッフに科すことはできません。

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