配偶者を医療法人の理事にして、すぐに退職金を支払ってはいけない

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2016/01/30
配偶者を医療法人の理事にして、すぐに退職金を支払ってはいけない

配偶者を医療法人の理事にして、すぐに退職金を支払ってはいけない

医療法人が退職金を院長先生や配偶者、子供に支払うことは、個人事業主の医院や病院ではできないことであり、かなり税務上のメリットがあるという話の続きになります。退職金は、医療法人にとっても、院長先生個人にとっても、かなり有利な制度だということは、誰でも認めるのですが、それゆえに、いろいろな制約があります。もう一度、復習ですが、医療法人は、退職金を支払うことで、一気に高額な経費を作ることができます。

一方、退職金をもらった院長先生は、下記の数式によって安くなった退職所得を、給料とは別で計算した所得税を支払えばよいことになります。

 

退職所得 = ( 退職金 - 退職所得控除額 )×1/2

  • 退職所得控除額 勤務期間20年以下  40万円×勤務期間
  • 勤務期間20年超 70万円(勤務期間-20年)+ 800万円

 

医療法人側としては、毎年、院長先生の給料を高く設定してけば、給料であっても、退職金であっても、同じ経費なのですが、院長先生側としては、所得税が給料に比べると、かなり低くなり、メリットがあります。そこで、法律上は、この所得税に関して、いくつかの制約があります。

 

(1) 特定役員退職手当について

院長先生としては、安い所得税になるならば、できるだけ高額な退職金を支払いたいと考えます。

支払える退職金の上限は、下記の計算式でした。

 

月額の給料 × 在籍年数(切り上げ) × 功績倍率 = 退職金の限度額

 

院長先生の月額の給料は高いのでよいのですが、配偶者である妻にも退職金を支払おうと考えると、それほど高くないかもしれません。特に、配偶者である妻が、理事にならず、普通の社員として働いてもらっていると、理事の退職金規定はあっても、社員の退職金規定はないことも多いはずです。

もし社員の退職金規定があったとしても、数十万円の退職金を支払う程度のはずです。そこで、妻を理事にして給料を上げて、退職金を支払おうと考えたとします。子供が医療法人を継いだあと、院長先生は残るかもしれませんが、妻(子供にとっては母親)は、先に引退することも多いでしょう。

 

それで、理事として、妻の給料を上げるからには、今まで1週間に2-3日程度の出社を、毎日来てもらうことに変更したり、理事会にも出席して意思決定に参加してもらい、仕事の量は増やします。

 

医療法人は退職金の準備として、生命保険に加入して、利益を繰り延べて4年後にピークが来るように設定したとします。妻としても、毎日の出社が、何年間も続けられませんが、4年ぐらいであればと了承したとします。

これで、4年後に退職金を支払うと、医療法人は経費として認められますが、妻の所得税は、下記の数式で計算されることになるのです。

 

退職所得 = 退職金 - 退職所得控除額

  • 退職所得控除額 勤務期間20年以下  40万円×勤務期間

 

通常の退職所得と違い、1/2がなくなっています。
これを特定役員退職手当と呼びます。

 

簡単に言えば、理事や取締役として、5年以下(1年未満は切り上げ)であると、退職金の所得税をそれほど優遇してくれないのです。

 

MS法人から、妻や子供に退職金を支払う場合でも同様です。
そのため、必ず、5年以上は、理事もしくは取締役として働いてから、退職金をもらうようにしてください。

 

(2) 退職所得控除額が減額される

特定役員退職手当に該当することは少ないかもしれませんが、医療法人の理事とMS法人の取締役を同時に退職するということはよくあります。この場合にも、医療法人やMS法人は退職金を経費として計上できますが、もらう院長先生や妻にとっては、所得税の特例が減額されてしまうので、注意が必要です。

配偶者を医療法人の理事にして、すぐに退職金を支払ってはいけない

上記のように、院長先生は個人事業主として医院経営や病院経営を行っていた時代があり、そのときから、MS法人を設立していたとします。そのため、医療法人よりも、MS法人の方が設立年月日は長くなっています。

MS法人の代表取締役は配偶者である妻だったとします。今回、医療法人の理事を退職するとともに、MS法人も退職することになりました。妻は医療法人の設立時から理事として、20年間、働いていました。

どちらからも、5000万円の退職金を支払うので、合計1億円になります。普通に計算すると、医療法人からの退職金は、2100万円が退職所得となり、所得税は770万円となります。MS法人からの退職金については、退職所得控除額が大きいので、退職所得は1750万円と小さくなり、所得税は600万円です。

妻は、合計で1億円の退職金をもらっても、合計の所得税が1370万円ですので、実効税率は13.7%で、やはり退職金は優遇されていることが分かります。
ところが、AとBの時期によって、計算方法が変わってしまうのです。

 

AとBが同一年中だった場合

医療法人とMS法人から、退職金を同一年中に支払ったとします。すると、医療法人の勤務期間が、MS法人の勤務期間と重複しているため、20年間の勤務期間はなかったものとされてしまいます。しかも、5000万円と5000万円の合計1億円が1年間で支払われているため、合算されて所得税が計算されるのです。

具体的に計算すると、退職所得は、「(1億円-1500万円(退職所得控除額))×1/2」で4250万円となり、所得税は、1850万円と計算されてしまいます。
別々に退職金をもらった場合と比べて、480万円も所得税が増えてしまうのです。

 

Bの前年以前4年までにAが支払われた場合

AとBを同じ年ではなく、Aを支払ったあと、5年以内にAを支払った場合です。

 

所得税では、退職金をもらった日の属する前年以前4年の間に退職金をもらっている場合、その勤務期間と重複した部分は、退職所得控除額を控除すると決められています。

 

そのため、やはりAの医療法人での20年間の勤務期間を、Bの勤務期間から控除されてしまいます。医療法人からもらった退職金5000万円に対する所得税は、770万円のままです。ところが、MS法人からもらった退職金5000万円の退職所得は、2150万円となり、所得税が800万円と計算されてしまうのです。これを合算すると、退職金の所得税は1570万円となります。

同じ年にもらうよりも、所得税は減っていますが、通常よりも200万円も増えています。Aの退職金をもらった時期から、5年以上経った日にBの退職金をもらえばよいだけです。どちらも院長先生が自分で決定できるのですから、無駄な所得税を支払う必要はありません。

このように、院長先生や配偶者(妻)は、医療法人でも、MS法人でも、ずっと理事や取締役として働いてきた事実は変わらないのに、退職金を支払う時期を間違っただけで、余計な所得税を納めるハメになってしまうのです。

 

医療法人とMS法人から退職金を支払う時期には、
十分、注意しましょう。

 

退職金は、医療法人やMS法人で経費になること、そしてもらった院長先生や妻の所得税が、できるだけ安くなること、この両方があって、初めてメリットがあると言えるのです。

 

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