医療法人の理事長は、医師または、歯科医師でなくてはいけないのか?

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2016/02/20
医療法人の理事長は、医師または、歯科医師でなくてはいけないのか?

医療法人の理事長は、医師または、歯科医師でなくてはいけないのか?

医療法人の理事長とは、医療法人を代表し、その業務を総理する者で、代表権を持っています。そのため、理事長が契約書に押印すれば、そこに記載されている条件を、医療法人が守らなければいけません。

当然ですが、医療法人の理事長として行った行為は、医療法人に帰属します。契約当事者が、理事長が誰なのか分からず、医療法人で働く人と勝手に契約を締結してもらっては困ります。

そこで、理事長が誰なのか、第三者にも周知するために、医療法人の登記簿謄本には、「理事長」の名前と住所が記載されます。

登記簿謄本は、法務局にいけば、誰でも取得して閲覧できます。株式会社の場合にも、代表取締役の名前と住所が登記されます。さらに、株式会社の場合には、代表権のない取締役と監査役も、名前が登記簿謄本に記載されています。

一方、医療法人の場合には、理事長だけが登記簿謄本に記載されるだけで、代表権のない理事や監事は、記載されていません。

ただ、毎年、決算日から3ヶ月以内に都道府県(政令都市の場合には市町村)に提出する事業報告書には、理事と監事の名前を記載して提出する必要があります。

この事業報告書は、誰でも3年前のものまでは、閲覧できます。

 

医療法によって、医療法人を設立するときには、理事が3人以上、監事を1人以上、選任することが必要です。理事については、都道府県知事の許可を受けた場合には、1人または2人の理事でもよいとなっています。

しかし、医療法人の設立の申請をしたときに、理事の数が少ないと、それだけで審査には不利となるため、最低の3人を選任するのが普通です。

理事になれるものとしては、医療法で、下記以外の人と決められています。

  •  未成年者(判断能力があると認められた場合は、可能)
  •  医療法人と取引関係にある営利企業の役職員

上記の営利企業とは、医療機器メーカーや製薬会社だけではなく、MS法人も、当然に含まれます。そのため、MS法人の取締役と医療法人の理事は兼任できないと考えてください。
ということで、理事は、MS法人の取締役以外であれば、ほとんど、誰でもなることができるのです。

では、その理事の中から選ぶ理事長も、医師、または歯科医師でなくてもよいのか、という疑問が沸くかもしれません。

 

実は、医療法人の理事長だけは、
原則、医師または歯科医師から選任しなくてはいけません。

 

確かに、理事長を医師や歯科医師に限定するよりも、もっと経営能力が優れた人がいれば、委任して、医院経営や病院経営を行ってもらった方がよいという意見もあります。最低3人の理事ということで、そのうち、1人が医師や歯科医師でもよいのかもしれません。実際に、医療法人の事務局長には、能力のある人が多いのも事実です。

ところが、医師や歯科医師ではない人が、医療法人の経営を行った場合、利益を追求する余り、医学的知識がないことが原因で、大きな問題が発生する可能性があります。

 

過去に、埼玉県所沢市で、美容室やアスレチック室、ラウンジなどを備えた一流ホテルのような設備を整えていた富士見産婦人科病院というものがありました。ここは、埼玉県内だけではなく、他の県からも多数の妊婦が診察に訪れて、儲かっていました。

1980年に妊婦が、この富士見産婦人科病院で診察を受けて、子宮癌を宣告されたのですが、他の病院で再度診を受けたところ、全く異常が無いことが判明したのです。この病院でのみ診察を受けていなかった妊婦たちは、理事長の診断を信じてしまい、正常な子宮や卵巣の摘出手術を行っていたのです。

この理事長は、医師免許を持たずに、無資格の診療を行い、当然、保険診療の報酬も不正請求していました。

この事件をきっかけに、医療法人の理事長は、医師または歯科医師でなければいけないという規定が設けられたのです。

 

理事長は医師、または歯科医師というのは原則ですが、例外規定もあります。

医院経営や病院経営の近代化、効率化を図る目的で、理事長となる人の経歴や理事会を構成するメンバーを総合的に検討して、適正かつ安定的な経営ができると認められる場合には、医師または歯科医師以外からも選任できます。

その判断は、医療法人に委ねられているわけではなく、下記の4つの基準のいずれかを満たして、かつ都道府県知事の許可を得た場合だけ、可能となります。
これは、平成17年5月23日の社会保障審議会医療分科会で決定された基準ですが、すべてではなく、「いすれか」1つでも満たせばよいのです。

 

1.過去5年間にわたって、医療機関としての運営が適正に行われ、かつ、医療法人としての経営が安定的に行われていること。

2.理事長候補者が当該法人の理事に3年以上在籍し、かつ、過去3年間にわたって医療機関としての運営が適正に行われ、かつ、医療法人としての経営が安定的に行われていること。

3.医師または歯科医師の理事が、理事会の3分の2以下であり、親族関係を有するものなど特殊の関係がある者の合計が、理事全体の3分の1以下である医療法人であって、かつ、過去2年間にわたって、医療機関の運営が適正に行われていること、及び、医療法人としての経営が安定的に行われていること。

4.昭和61年6月27日において、すでに設立されていた医療法人については、次に掲げる要件(ア又はイ)のいずれかに該当すること。
ア.同日において理事長であった者の死亡後に、その理事長の親族で医師・歯科医師でない者が理事長に就任しようとする場合
イ.同日において理事長であった者の退任後に、理事のうち、その理事長の親族であって医師・歯科医師でない者が理事長に就任しようとする場合

 

ここで分かることは、もし理事長が不慮の事故で亡くなったとしても、医師や歯科医師ではない人でも、例えば、配偶者や子供が、代わりに医療法人の運営を行うことができることです。
このとき、医療法人の定款で常務理事という制度を事前に規定しておくと、スムーズに交代できます。

 

常務理事を置く場合の定款例

  •  理事は本社団の常務を処理する。
  • 理事長に事故があるときは、常務理事がその職務を行う。

 

一方、常務理事を置いていない医療法人では、下記ように定款には記載されているはずです。

 

常務理事を置かない場合の定款例

  • 理事は、本社団の常務を処理し、理事長に事故があるときは、理事長があらかじめ定めた順位に従い、理事がその職務を行う。

 

どちらでも、医療法人の定款として、法律上は問題ありません。常務理事を置いていない医療法人もたくさん、あります。ただ、常務理事がいない医療法人の理事長が、あらかじめ職務を行う理事の順位を定めていないと、現場が混乱することになります。

 

実際に、私が相談を受けた事例がありました。
この医療法人では、父親と長男と次男の3人が理事になっていました。半年前に、理事長である父親が心不全で突然、亡くなってしまったのです。理事長も80歳を超えていたのに、夜勤を連続して行っていたことが原因だと聞きました。そのあと、長男と次男のどちらが、医療法人を継ぐのかで、争いになり、事務局長が困って、相談に来たのです。

医療法人の議決権の50%超を、理事である長男、または次男のどちらかが所有していればよかったのですが、理事長の妻と長男と次男の3名だったことで、全員の議決権は33%と均等になっていました。

理事長の妻、子供たちから見れば母親に当たりますが、すでに認知症で老人ホームに入っていました。そのため、議決権を行使することはできず、長男と次男はお互いに同じだけ、しかも過半数に達しない議決権を所有する関係になっていたのです。

ずっと半年間、喧嘩が絶えず、理事長の父親と何十年も一緒に働いてきた医療法人の看護師は、嫌気が差して、ほとんどが辞めてしまったようです。最近では、患者も減っていて、医業収益も前年比20%減だと事務局長が嘆いていました。

私は相談を受けましたが、その長男と次男を知っているわけでもなく、法律的には、どうしようもありません。最低でも、常任理事を決めておいてもらえれば、長男と次男の間で、優劣がついたはずです。

 

定款の変更は、都道府県への届出事項となりますが、それほど面倒な手続きではありません。

 

常務理事がいない医療法人は、
今からでも変更しておきましょう。

 

 

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