医療法人を設立したときに、どのような資産と負債を引き継ぐのでしょうか?

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2016/07/30
医療法人を設立したときに、どのような資産と負債を引き継ぐのでしょうか?

医療法人を設立したときに、どのような資産と負債を引き継ぐのでしょうか?

個人事業主の医院や病院から、医療法人を設立して、事業を移転させるときには、引き継がせる資産と負債を選びます。
「医院の建物内装や医療機器を引き継げばよいだけでは?」
と、あなたは思うかもしれません。
原則は、都道府県に提出した、医療法人の設立申請書に記載した資産と負債になります。資産の中に、医院や病院の建物や土地が含まれていれば、それも移転させます。
しかし、通常は申請したときから、半年から1年後に医療法人の事業が開始されるため、記載した金額からは変動しています。

また、申請したときから、医療法人の事業が動くまでの間で、新たに、個人事業主として資産を購入したり、追加で金融機関から借金したり、医療機器のリースの契約をすることもあります。
このとき、注意すべきことがあります。

1つ目は、個人の医院や病院に属する、資産と負債の一部を持って行かないことです。

個人事業主の資産と負債を比べて、どちらが大きくなるのかを確認して、対応を変えます。

 

(1)個人事業主の医院で、「資産の合計金額>負債の合計金額」の場合

すべての資産を移転することで、負債に比べて、かなりの資産超過となる場合、個人事業主の医院が儲かっていた証拠です。資産から負債を差し引いた金額は、院長先生が医療法人に貸し付けることになります。この貸付金は、院長先生の相続財産になるため、相続税がかかります。
そのため、資産のうち、院長先生に残していけるものは、移転させないようにしましょう。
例えば、現預金や保険診療の未収金、立替金などです。

医療法人を設立したときに、どのような資産と負債を引き継ぐのでしょうか?

 

(2)個人事業主の医院で、「資産の合計金額<負債の合計金額」の場合

個人事業主の医院や病院は、医療機器のリース料や建物内装の減価償却費が高かったり、開業から間もない時期であれば、赤字になることもあり得ます。医院の建物を建設したり、増改築すれば、金融機関からの借金の金利が重くのしかかることもあります。
それが何年も続くと、個人事業主の財務状況は、債務超過となります。
このとき、すべての負債を医療法人に移転してしまうと、資産が不足するため、自動的に、院長先生への貸付金となってしまいます。

医療法人を設立したときに、どのような資産と負債を引き継ぐのでしょうか?

この貸付金が医療法人に残ってしまうと、将来、院長先生が返済しなければ、いけません。
院長先生にお金がなければ、給料をもらい、所得税を支払ったあとの残りのお金で返済することになり、資金効率は悪くなります。
そのため、個人に残していける借金があれば、医療法人に移転させない方がよいでしょう。
逆に、金融機関からの借金は、個人に残しておくと、そのあとの金利が経費になりません。
こちらは、必ず、医療法人に移転させるべきです。

2つ目が、建物と土地まで移転させるのかを、事前に検討することです。

個人事業主としての医院や病院が、「資産の合計金額>負債の合計金額」という資産超過の状態であれば、建物と土地を移転させないという選択肢もあり得ます。もともと、医療法人に建物と土地を移転させたときに、登録免許税や不動産取得税がかかり、それが、かなり高額となります。
確かに、医療法人で登記すれば、持分のない医療法人の場合、そのあと、相続税がかかることもなく、事業承継した子供や孫が使えるため、メリットはあります。
しかも、一度、医療法人で登記してしまえば、あとで、名義を変える手続きも必要なくなります。
ただ、医療法人にお金がない場合には、銀行から借りてくるか、院長先生からの借入金、もしくは分割払いとして、未払金となってしまうのです。

結局、銀行からお金を借りれば、当然、金利が発生して、毎月の元本返済もあるので、あとで医院経営や病院経営の資金繰りを圧迫するかもしれません。しかも、医療法人が買ったお金が、院長先生の通帳に入るため、将来、相続税がかかります。
次に、院長先生からお金を借りる(未払金でも同じ)としても、やはり相続財産となるため、医療法人が完済しないかぎり、高額な相続税がかかってしまうのです。もし、院長先生が保有したままで、医療法人に貸し付けていれば、相続税を計算するときには、建物は貸家、土地は貸家建付地となり、かなり評価額が下がるのです。
院長先生の相続が、いつ発生するのかは、誰にも分かりません。

 

それでも、時間がそれほどなければ、院長先生が個人で所有したままの方がよいでしょう。

 

なお、医療法人が保健所に申請したのが遅く、社会保険診療収入が、個人事業主であった預金口座に振り込まれてしまうことがあります。すでに看護師も社員も医療法人と雇用契約を締結して、実態としても、医療法人で診療を行っている場合には、医療法人の売上として構いません。
ところが、社会保険診療収入が個人事業主の医院や病院に支払われるときには、源泉徴収されてしまいます。
つまり、事前に下記の計算式での所得税を差し引かれて、差額を振り込んでくるのです。

医療法人を設立したときに、どのような資産と負債を引き継ぐのでしょうか?

例えば、月額1000万円の社会保険診療収入があったとすれば、源泉所得税は、約100万円にもなります。
一方、医療法人が社会保険診療収入を受け取るときには、源泉徴収されていません。
ここで、個人事業主である院長先生の口座に振り込まれた社会保険診療収入を、医療法人の売上とした場合、この源泉徴収の100万円はどうなるのでしょうか?

 

結論を言いますと、院長先生が個人事業主として確定申告を行い、還付してもらうしかありません。

 

実際に、1月1日に医療法人が開始することは少ないと思います。
というのも、院長先生が個人事業主として確定申告するときに、保険診療の売上が5000万円以下、かつ自由診療の売上も合わせて、7000万円以下の場合には、概算経費が使えます。これは、かなりメリットがある税金を優遇してくれる特例です。
医療法人は設立しても、1年以内に事業を開始すればよいので、この概算経費が最大限に使える月に、事業を移すべきなのです。
個人事業主は1月が事業開始の時期なので、例えば6月ぐらいに保険診療の売上が5000万円を上回りそうであれば、5月末で廃業して、6月から医療法人付け替えればよいことになります。

ところが、上記の月額1000万円の社会保険診療収入が6月の場合、源泉徴収を還付してもらうためには、個人事業主の医院としての売上に計上し、同額を経費に算入することになります。

 

医療法人としては、社会保険診療収入に関する源泉所得税を還付してもらう、または自分が支払う法人税から差し引くことはできないのです。

 

そのことで、売上が5000万円を超えて、概算経費が使えなくなれば、損をします。源泉所得税を諦めて、個人で還付してもらわないという選択肢もありますが、100万円も無駄になってしまいます。

とにかく、個人事業主から、医療法人に事業を移転させるときに、売上の計算は余裕を持って行いましょう。もしくは、保健所への申請を事前に行うことで、ズレないように注意することです。

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