一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。③

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2017/02/20
一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。③

一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。③

持ち分の定めのある医療法人について、父親が生前に医院や病院を継ぐ長男に持ち分を譲渡する、もしくは長男が作った一般社団法人に贈与する方法を考えてみたいと思います。
前回まで「①長男に持ち分を贈与する」を説明してきましたので、「②長男に持ち分を譲渡する」から始めます。
父親が院長先生で医療法人の持ち分を所有していて、長男が医院の事業承継をすることが前提です。そして、長男以外の相続人としては、他に次男と長女がいることにします。

 

② 長男に持ち分を譲渡する

院長先生の医療法人の持ち分を、生前に長男に譲渡するという方法があります。
譲渡するときには、院長先生の持ち分の売却益は譲渡所得となり、20%の所得税がかかります。

長男との売買価格ですが、類似業種比準価額と純資産価額を50%ずつで組み入れた評価となります。

個人間で贈与するならば、類似業種比準価額をもっと大きな比率で組み込めた場合でも、個人間の譲渡となると、50%ずつと決められているため評価は高くなります。贈与する場合には1億円だった医療法人の持ち分の評価も、譲渡することになれば1億5000万円に上がるかもしれません。

通常、医療法人は1000万円で設立されているはずですので、院長先生が持ち分を譲渡した時に、「(1億5000万円-1000万円)× 20%=2800万円」の所得税を支払うことになります。
適正時価で父親と長男が売買していれば、医療法人の持ち分に対して、あとで次男や長女から遺留分を請求されることはありません。院長先生が売却して残ったお金を、次男と長女に相続させる遺言書を書けば争いは起きないでしょう。

長男に売却した段階で、父親の医療法人の持ち分の評価は固定されたことになりますので、相続時精算課税制度を使った贈与と同じ効果が得られます。

ところが、この方法を実行するためには1つだけ大きな壁があります。それは、長男が売買価格に当たる1億5000万円を用意できないことです。銀行に相談しても、個人に対して1億円以上を貸すことは難しいと思います。
「医療法人が連帯保証になれば借りられるのでは?」と考える院長先生もいます。でも医療法54条により、医療法人が特定の人のために保証人になってはいけないのです。
「では長男が所有する医療法人の持ち分を担保に設定したら?」という院長先生もいます。これも銀行は株式会社ですから、医療法人の持ち分を取得しても社員にはなれず、つまり議決権を使えず、担保として設定する意味がありません。そのため、院長先生に十分な貯金があり、長男にそれを貸し付けて、将来の給料から返済していくという方法しかありません。

もし院長先生が亡くなったときに、長男の返済が終わっていなければ、その貸付金は相続財産となります。相続財産であるかぎり、長男だけではなく、次男と長女にも相続する権利が発生します。これでは、医院や病院の事業承継ができても、相続人間での争いは防げそうもありません。

 

③ 一般社団法人に贈与する

長男が一般社団法人を設立して、理事になります。
理事は長男でなくても、長男の妻や子供(院長先生から見たら、孫)でも構いません。院長先生は医療法人の持ち分を、この一般社団法人に贈与するのです。個人が法人間に対して贈与する場合、やはり個人間で贈与したときとは違い、類似業種比準価額と純資産価額が50%ずつ組み込んで持ち分を評価すると決められています。個人間の贈与であれば1億円だったところ、個人から一般社団法人への贈与は1億5000万円と評価されてしまうのです。

贈与された一般社団法人は、受贈益という利益が計上されて、約30%の法人税がかかります。さらに、院長先生が一般社団法人に持ち分を贈与した時には、みなし譲渡として売却益に対して、個人間の譲渡と同じように20%の所得税もかかるのです。
「所得税だけではなく、一般社団法人で法人税もかかるなら、個人間の譲渡よりも損をするのでは?」考えるかもしれません。ただ、一般社団法人を設立して持ち分を買うと2つだけ、個人間での譲渡よりもメリットがあるのです。

1つ目は、一般社団法人であれば、銀行がお金を貸してくれる可能性が高くなることです。

それでも医療法人は配当ができないため、何の収入もなければ、一般社団法人が銀行に借金を返済することができません。それならば、一般社団法人が収益不動産やサプリメントを販売すればよいと思うかもしれません。ところが、営利事業を行う一般社団法人は医療法人の社員になれないとされているのです。
そのため、一般社団法人の借入金を子供が借り換えていく方法しかありません。

一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。③

それでも、長男が個人で買う場合には1億5000万円の借金が必要でしたが、贈与する場合には、30%の法人税を支払えばよいため、「1億5000万円×30%=4500万円」を借りればすむことになります。1億5000万円を個人で借りるよりも、4500万円を一般社団法人で借りる方が、ハードルは下がります。

そして、2つ目のメリットは、一般社団法人の持ち分は相続財産にならず、相続税もかからないことです。一般社団法人に一度、医療法人の持ち分を移してしまえば、長男の子供(院長先生から見れば孫)が相続するときにも、相続税がゼロとなります。
これは、ひ孫などずっと相続されていっても相続税がゼロとなるため、かなり節税になります。院長先生が一般社団法人に持ち分を贈与したとしても、相続財産の範囲にはならないため、兄弟で争うことも防げます。それでも、院長先生としては、次男と長女にそれなりの財産を遺言書などで相続させることはすべきでしょう。

この一般社団法人に、医療法人の持ち分を贈与する方法はよいことばかりのように聞こえますが、注意すべきことが1つあります。それは、相続税法66条の規定です。

「持分の定めのない法人に対し財産の贈与があつた場合において、当該贈与により贈与をした者の親族の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについては、持ち分の定めのない法人を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。このとき、持分の定めのない法人に課されるべき法人税があった場合には、それに相当する額を控除する。」

院長先生が医療法人の持ち分を一般社団法人に贈与した場合には、贈与税や相続税を不当に減少させる行為に当たるため、贈与税がかかるということです。

一度に持ち分を贈与すると、相続税の評価額である1億円に対して贈与税がかかるのです。
もちろん、すでに支払った受贈益に対する30%の法人税は差し引いてくれるのですが、結局、30%ではすまないことになります。

そこで、院長先生が一度に一般社団法人に持ち分を贈与せずに、数年に分けて贈与するのです。

そうすれば、一般社団法人を個人とみなして贈与税がかかっても、受贈益に対する約30%の法人税よりも低ければ、追加で税金を支払うことはなくなります。

ただ、院長先生が長男個人に贈与したときと同じ2つのデメリットが出てしまいます。
1つ目が、院長先生が贈与し終わらないうちに認知症になったり、病気になってしまうことです。2つ目が、贈与していくうちに、黒字である医療法人の持ち分の評価が高くなるため、予想以上に贈与税が上がってしまうことです。それでも、一般社団法人に持ち分を贈与することは、メリットが大きいと私は思います。

通常、株式会社の株式を一般社団法人に贈与することは、なぜ一般社団法人を使うのかという理由が必要となります。一方、医療法人の場合には、そもそも株式会社に持ち分を売却すれば議決権もなく、それこそ合理性がありません。

非営利な一般社団法人でなければ、医療法人の社員になれないのですから、そこに贈与することは一定の合理性があると考えられます。

一度、検討してみてはどうでしょうか。

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