一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。②

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2017/02/10
一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。②

一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。②

持ち分の定めのある医療法人について、父親が生前に医院や病院を継ぐ長男に持ち分を贈与、譲渡するという方法、もしくは長男が作った一般社団法人に贈与するという3つの方法があります。
それぞれにメリットとデメリットがありますので、それを理解して選択肢を絞りましょう。

 

① 長男に持ち分を贈与する

長男に医療法人の持ち分を生前贈与するという方法は、贈与税が高すぎて難しいと考えてしまう院長先生が多いはずです。
例えば、医療法人の持ち分が1億円という評価だったとします。

贈与税を計算するときも、相続のときと同じように、類似業種比準価額と純資産価額という2つの方法を組み合わせて、医療法人の持ち分を評価します。

簡単に説明すると、類似業種比準価額とは医療法人の利益から評価する方法です。
一方、純資産価額とは土地や建物、建物内装設備、医療機器などの資産を時価で評価して、そこから負債を差し引いて評価する方法です。通常は、どのような業種でも「類似業種比準価額<純資産価額」となる傾向があります。もし評価した結果、「類似業種比準価額>純資産価額」となった場合には、純資産価額だけで評価してよいことになっています。
医院経営や病院経営では、基本的に設備投資が大きいため、類似業種比準価額の方が安くなるので、組み合わせて評価した方が得になるはずです。

そして、医療法人の規模が大きくなるほど、類似業種比準価額を使える比率が高くなります。
ということは、医療法人の持ち分が高いと有利な評価額にしてくれるということで、贈与する場合には、この点では大きなメリットがあります。
それでも、持ち分が1億円だった場合、贈与税は47,995,000円と計算されます。
これでは、確かに長男は支払えません。
そこで、贈与税は分散して贈与すれば節税できるため、毎年1000万円ずつ10回に分けて贈与したとします。つまり、贈与が終わるまでに10年かかります。でも1回の贈与における贈与税は177万円と下がるため、10回で1770万円ですみます。先ほどに比べると36%に減っているので、約3分の2の贈与税が節税できました。

ただ、10年に渡って行うことで、新しいデメリットが2つ生まれます。
1つ目のデメリットは、10年間は院長先生の意識がハッキリしてもらわないといけないことです。院長先生が亡くなることはなくても、認知症となると贈与はその時点でできなくなります。「認知症なんて、20年経ってもならないよ」と笑う院長先生もいます。それでも相続が発生したときに、他の兄弟から、「その時期は父親がすでに認知症で、長男との贈与契約書は成立していなかったのではないか」と裁判を起こされているケースが数多くあるのです。

2つ目のデメリットは、贈与に10年間もかけているうちに、医療法人の持ち分の評価が上がってしまうことです。医療法人は配当ができないため、黒字が発生すると、純資産価額がずっと上がり続けます。つまり、1億円を10回に分けて贈与するという提案でしたが、実際には1億円を超えてしまうため、贈与税は1770万円では終わらないはずなのです。

これを聞くと、「だったら、もう理事長を長男に交代して、給料を多く支払えば赤字にできるはずだ」と院長先生から主張されることもあります。

私は、医療法人が銀行からお金を借りたり、医療機器のリースを組んだりするため、赤字にすることは勧めていません。

今は借金がゼロの医療法人であっても、検査を始めるために医療機器を買いたい、分院を作るために建物の内装工事と運転資金が必要となった、介護事業を新たに始めたいなど、医業収益を上げるために方向転換したケースをたくさん見てきました。過去に赤字を連続させていれば、それが理事長の給料が高いからという理由であったとしても、銀行の審査は厳しくなってしまいます。
過去の決算書は変更ができないため、「2年ぐらい黒字が続いたら再度、申し込んでください」と言われてしまいます。もしくは、金利が高い銀行に持ち込んで借りることになってしまいます。そんなことにならないように、黒字にしておくべきでしょう。

実は、2つ目のデメリットである贈与税が上がってしまうことを防ぐ方法はあります。
それは相続時精算課税制度と呼ばれる下記の制度を使うことです。

一般社団法人であれば、医療法人の持ち分を買い取って、議決権も持てます。②

これによって、1億円の持ち分を院長先生から長男に一度に贈与しても、そのときは2000万円の贈与税を納めるだけですむのです。そのあと、院長先生の相続が起こった時に、贈与したときの評価額で相続税を計算しなおして精算します。

この制度には、普通の贈与に比べると大きなメリットがあります。
それは相続税を計算するときに、贈与から20年以上が経っていて、そのときの医療法人の持ち分の評価が2億円であったとしても、贈与した1億円で評価してよいのです。つまり、贈与したときの医療法人の評価額で固定できているのです。

さらに通常の贈与税を支払った場合には、院長先生の相続が発生して相続税を計算してみたら、贈与税を支払いすぎていたとします。その場合でも、過去に支払った贈与税は還付されません。
ところが、相続時精算課税制度を使うと、相続税を計算してみたら、20%の贈与税の方が高いことが判明した場合、差額を還付してもらえるのです。相続時精算課税制度を使って、どれだけ贈与税を多く支払っても損をすることはないのです。

ただ、相続時精算課税制度にはデメリットもあります。
長男が相続時精算課税制度を選択して、院長先生から医療法人の持ち分を贈与されると、そのあとは毎年110万円まで無税となる暦年贈与が使えなくなるのです。選択したあと、院長先生から長男に贈与された財産があれば、すべてその評価額に20%をかけた贈与税を納めていき、相続のときに精算することになります。
でも相続時精算課税制度は長男にだけ適用されるため、院長先生が長男の妻や長男の子供(院長先生にとっては孫)に贈与する場合には、通常の暦年贈与が使えるので大きなデメリットではありません。

最後に普通の贈与であっても、相続時精算課税制度であっても、共通するデメリットがあります。それは遺産分割協議の対象となる財産は、院長先生が亡くなった時に、院長先生の名義の財産だけではないことです。

そのため、生前贈与された財産は、他の相続人と遺産分割協議を行う対象となるのです。

これを聞くと、「相続が発生した3年前までの贈与は、相続財産に組み込まれてしまうんだよね。だから、早目に贈与すれば避けれるでしょ」と話をする院長先生もいます。ところが、3年前までの贈与がなかったことになるのは、贈与税の税法の話なのです。

遺産分割協議については、民法となりますので、「生前贈与された財産を組み込まなくてよくなる時効はない」というのが結論になります。

そのため、10年前に長男に1億円で贈与した医療法人の持ち分は、相続が発生した段階で、現時点の時価に評価しなおされて、それが2億円であれば、遺産分割の対象となるのです。他の兄弟からそれに見合う財産を請求されたら、長男は支払うことになります。
もし子供が長男と次男と長女の3人で、相続人も3人だったとすると、長男は3分の1しか相続できないことになり、他の2人が院長先生の財産の3分2を相続する権利があるのです。

相続が発生したときに、医療法人の持ち分を第三者に売却することは現実的ではありません。もし売却できたとしても、それは長男が医療法人の理事長から降りるということになり、院長先生が事業承継した意図から外れてしまいます。そこで、院長先生が遺言書で医療法人の持ち分は、すべて長男に渡すと書いておけばよいのです。

それでも、すべての問題が解決できたわけではありません。
というのも、院長先生の財産の中で、医療法人の持ち分の評価額はかなりの部分を占めているはずだからです。次男と長女には、6分の1ずつの遺留分を主張する権利があるのです。当然ですが、院長先生から生前贈与された財産も含めて、長男は2人から遺留分の請求を受けることになります。
遺留分の場合には、医療法人の持ち分を払い戻せという権利が、次男と長女に発生しますので、医療法人の安定的な長男への承継という目的が達成できません。

それに、そもそも兄弟間で争わせることは、院長先生が望むことではないと思うのです。結論としては、医療法人の持ち分の評価が高い場合には、長男に対して贈与するという方法はお勧めできません。

そこで、院長先生は医療法人の持ち分を長男に対して譲渡、又は一般社団法人に譲渡という方法を選択することになるのですが、それは次で解説していきます。

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