医療法人が合併するときには、税金に気をつけよう

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2013/02/08
医療法人が合併するときには、税金に気をつけよう

医療法人の院長先生が、医療法人をM&Aで買収する事例が増えました。
ただし、原則、医療法人が別の医療法人の出資持分を保有することはできません。
そのため、医療法人が、他の医療法人をM&Aで買収するときには、下記の2つのケースを選択することになります。

ケース1

院長先生が個人で、複数の医療法人の社員(株式会社の「株主」に当たる人を、医療法人では「社員」と呼びます)となるケースです。

ただ、医療法人は社員が3名以上必要ですので、実際には親族も出資することになります。
ここからは、簡単に考えるために、院長先生が1人で医療法人の出資持分を100%所有することにします。

医療法人が合併するときには、税金に気をつけよう

(1) メリット

この形態の一番のメリットは、M&Aで買収したB医療法人にまったく変化がないことです。

そのため、B医療法人で働く看護師やスタッフも今まで通りで、何にも変わりません。

B医療法人に来る患者にも、医院の名称が変わらなければ、M&Aが行われたことは分かりません。あとで、請求書の明細を見ても、加入している健康保険組合から送られてくる医療費の明細のハガキも、今までとまったく同じです。

医院経営や病院経営は、周りの住民の口コミによって、大きく影響を受けることもあります。
「ここの病院って、経営が苦しくなって、M&Aで売られたみたいよ」
などという根も葉もないうわさで、患者が減ってしまうこともあります。

医院のM&Aは、公表するものではなく、そっと行うのがベストです。

A医療法人が余剰した常勤医師を抱えられるはずもなく、M&Aで買収したとしても、すぐに新しい院長先生を派遣することはできないのが現状です。
そのため、M&Aが成立したあと一定の期間は、B医療法人の院長先生に残って、働いてもらう場合がほとんどです。

とすれば、医療法人の出資持分が売買されただけで、本当に変わりはありません。

1年ぐらいかけて、新しい院長先生を患者に紹介しながら、仕事を引き継いでいくことで、M&Aしたことが患者にゆっくり伝わります。これならば、院長が引退して、あとを引き継ぐ先生が来たという認識になるでしょう。

(2) デメリット

この形態のデメリットは、A医療法人が黒字で、M&Aで買収したB医療法人が赤字の場合です。
B医療法人の院長先生が高齢になったが、事業承継者がいなくて、M&Aで売却されたならば黒字であることも多いと思います。

ところが、B医療法人の業績が悪く、経営に行き詰って、M&Aで売却された場合には、まったく組織体制が変わっていない間は、赤字のままです。

このB医療法人の赤字を、買収側のA医療法人の黒字と通算できないとすれば、それだけ無駄な税金を支払い続けることになります。

そこで、A医療法人からB医療法人に、検査を委託するなどして、手数料を支払う方法をとる院長先生もいます。

確かに、B医療法人が検査を行うという実態があり、手数料が適正な金額であれば、上記の方法で問題ありません。
ところが、B医療法人は手数料をもらうだけで、人員が不足しているため、他の医療法人に再委託して、検査の仕事を丸投げしていることが、よくあります。

であれば、最初から、A医療法人が直接、その他の医療法人に検査を委託すればよいだけで、B医療法人に利益を落とす目的で、検査の仕事を委託していると、みなさる可能性があります。とすれば、A医療法人からB医療法人に支払った手数料が、税務調査のときに、無効とされてしまうリスクがあるということです。

さらに、B医療法人が赤字とすれば、銀行からの借り換えも難しくなります。
「A医療法人が保証すればよいのでは?」と言うかもしれませんが、ずっと単体で赤字の医療法人に多額のお金を貸し付けるのは難しいのです。それに金利も高めに設定されてしまう可能性もあります。

また、B医療法人の赤字が原因で、M&Aによって売却されたならば、組織自体を変革することが必要です。看護師やスタッフの意識改革を行い、危機意識を持ってもらわなければいけません。
給与の減額や退職金規定の変更もありえます。

ところが、このケースでは組織形態がまったく変わらないため、この改革も難しいのです。

ケース2

医療法人同士が合併して、M&Aで買収された医療法人が消滅するケースです。
ただ、医療法人同士の合併は、実例としては、それほど多くありません。

よくあるM&Aの方式としては、
「B医療法人の医療事業を、A医療法人が買収して、B医療法人はそのあと清算する」
というものです。

ただ、これからは持分の定めのない医療法人が増えるので、M&Aを合併で行うケースが増えると予想されます。

それでも、M&Aで医療法人同士の合併を行うときには、事前に都道府県等に確認しながら、手続きを進めてください。

医療法人が合併するときには、税金に気をつけよう

 (1) メリット

A医療法人の黒字とB医療法人の赤字を
通算できることです。

これは、B医療法人が過去に出した赤字、法人税では繰越欠損金と呼びますが、それもA医療法人で使うことができます。

この繰越欠損金は、現在では9年間繰り越せるため、B医療法人の過去の赤字が多ければ、A医療法人が当分、税金を支払う必要がなくなる可能性もあります。
もちろん、それだけB医療法人の経営が苦しいことになり、節税したお金は、銀行への借金の返済に回すことになるでしょう。

また、A医療法人と合併することで、B医療法人の組織体制はガラリと変わります。
新しい就業規則が適用されますし、看護師やスタッフの上司も変わり、意識改革されるはずです。

つまり、A医療法人の分院となることで運営方法がガラリと変わり、医院経営が改善する可能性があります。

(2) デメリット

突然、B医療法人でなくなったことで、周りの住民はM&Aで売られたことが分かります。
同じ医院名を使っていたとしても、請求書の明細や健康保険組合から送られてくるハガキに、A医療法人の名前が出てくるはずです。

一般の患者にとって、M&Aで売買されたというのは、新聞で読むことはあっても、身近で起こることは、ほとんどありません。そのため珍しく、詮索する患者もいるはずです。
悪いことをやっているわけではありませんし、事業承継のためにM&Aしたと言えば、変なうわさが立つことは、普通はありません。

ところが、新しい組織体制になり、今までの労働条件がかなり変わったり、厳しい上司が派遣されたことで、B医療法人で長年働いていた看護師やスタッフが辞めるかもしれません。

医院経営や病院経営では、看護師やスタッフは、周りの住民の代表でもあるのです。

彼女たちが、辞めたあとに、B医療法人の悪いうわさを流してしまうこともあります。
もちろん、悪意があったり、意図的ではなく、ちょっとしたグチが、だんだん大げさな話に発展するのです。

合併することで、税金のデメリットもあります。
B医療法人が建物や土地を保有している場合には、A医療法人に名義が変わるため、登録免許税などの税金がかかってしまうのです。
そして、医療法人同士が合併するときに、税制適格要件を満たさなければいけません。

この話は難しいので、詳細な要件は解説しませんが、合併をする前に、B医療法人の出資持分をA医療法人の院長先生(社員)に、すべて売却するという手続きを踏んでください。
そうしなれば、あとから多額の税金が発生するリスクが残ってしまいます。

最後に、このケースの最大のデメリットが、B医療法人が持っていたリスクが、M&Aで合併することで、A医療法人に引き継がれてしまうことです。

  • 【1】 保証債務(第三者の会社の保証をしていることは、決算書には載らない)
  • 【2】 リース債務(すでに廃棄した医療機器のリースの支払いが残っていることもある)
  • 【3】 未払残業代(看護師やスタッフに訴えられたら、まず勝てない)
  • 【4】 患者の訴訟(患者のクレームが、訴訟に発展することもある)
  • 【5】 税務調査(過去に、無理やりな節税をしていると否認される)

このリスクのうち、【1】と【2】は、M&Aで売却するB医療法人の院長先生も認識しています。
ところが、【3】から【5】は、M&Aで売却するB医療法人の院長先生が、まったく認識していないことがあります。M&Aで合併したあとで、数千万円、数億円の損害賠償をされて、A医療法人が負担することになった事例も実際にあります。

まったく身に覚えがないことでも、相手の言いがかりでも、災難が降りかかることもあるのです。
私が関わったM&Aでも、B医療法人にあたる医院が裁判で損害賠償を請求されて、合併したA医療法人が巻き込まれました。結果は、A医療法人が勝利して、損賠賠償はゼロ円という判決になったのです。

ただ、院長先生は時間を使い、弁護士の費用もかかり、何といっても、まったく非がないにも関わらず、A医療法人にマスコミが押しかける事態になったのです。記事にはなりませんでしたが、看護師やスタッフは動揺しましたし、院長先生は患者の口コミが心配だと言っていました。

このM&Aが合併でなければ、B医療法人だけが矢面に立ち、A医療法人は原則、関係ないという立場を取ることができたのです。もちろん、裁判にも勝ったのですから、B医療法人の院長先生に過失があったわけではありません。

M&Aで医療法人同士が合併するならば、このようなリスクがあることを覚悟すべきです。

このように、M&Aで医療法人を買収するときには、ケース1がよい、ケース2がよい、と断言することはできません。それぞれのメリットとデメリットを見て、あなたの医院や病院の目的に合った方を選択しましょう。

自分で迷ったときには、第三者の意見を聞いてみるのもよいかもしれません。

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